2017年6月4日日曜日

活動家から政治家へ スーチー氏への期待

11月8日、注目を集めたミャンマーの総選挙が実施された。最終結果はまだ出ていないが、11日現在の選挙管理委員会の発表によると、全664議席数中573議席が確定し、NLDが490議席を獲得と報じた。政権交代に必要な過半数の333議席確保に達しており、大方の予想どおり、アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の圧勝とみられる。与党連邦団結発展党(NSDP)もすでに敗北を認めており、政権交代は現実のものとなりそうだ。

これまで非暴力民主化運動を貫き、ノーベル平和賞を受賞したスーチー氏の名声もあり、海外メディアでも今回の結果を大きく取り上げている。気になるのは、NLDが勝利しても、憲法の規定により大統領にはなれないスーチー氏が「私は大統領より上の存在になる」、「次期大統領には何の権限も無い。私がすべてを決定する」などの強気の発言を続けていることだ。一部メディアでは「『権威主義的』と批判を招きかねない」との指摘も出ている。

これまで軍事政権により1990年の総選挙におけるNLD圧勝は黙殺され、スーチー氏は自宅軟禁を繰り返してきた。今回選挙の圧倒的結果を受けて、スーチー氏が実権を集中させ、民主化を強力に推し進めようという意気込みはわかる。実際、テインセイン大統領も平和的な権限委譲を進める意向を明らかにしている。しかし、欧米諸国による部分的な経済制裁など国際的批判を受けつつも、2011年以降、現政権は民主化を進め、実質経済成長率は7.69%上昇(14年度IMF統計)、外国企業の投資も増加し、国民からも一定の評価を受けているのが事実だ。軍事政権下の民政移管は、部分的にはミャンマーの開放をもたらした。この流れをスーチー氏はより良いものにできるのか、注視したいところだ。

一方で、投票権を剥奪された少数派や、ミャンマー国民のおよそ70パーセントを占める農村部などの貧困層の人々のなかには、日々の生活に追われて投票どころではないとのコメントもあった。選挙結果には全ての国民の総意が反映されているとは言い切れない。また、NLD候補者には、政治経験のない学者やタレントが多く、スーチー氏を支える有力な後継者がいないことは、今後のNLDが担うであろう政権運営に、別の意味で懸念が残る。

民主化を求める運動は、時としてその後の国の安定を揺るがすこともある。ミャンマーは幸いにも、総選挙という正統な過程を経て、さらなる民主化に向けてその一歩を踏み出すことになるだろう。スーチー氏はもはや民主化運動指導者としてではなく、真の政治家の指導者として手腕を発揮しなければならない。スーチー氏には、現政権や、中国をはじめとするアジア近隣諸国と前向きな関係強化をはかり、これまで進められてきた民主化の歩みを止めることなく、したたかに、そして確実に「真の民主化」の歩みを進めてほしい。

日本もこれまで、多額の資金援助をとおして、ミャンマーとの関係を深めてきた。今後もインフラ整備や人材育成などの分野に力を入れて同国の民主化を後押しし、ミャンマーとともにアジア全体の発展につなげていきたいものだ。
(日本ミャンマー支援機構 高野聡子)
 2015.11.12  

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